信用(与信)リスクとは?基本的な意味とリスクを軽減する与信管理について解説
信用(与信)リスクとは、企業が信用を基に取引を行う際に生じる「代金を回収できないリスク」を指します。信用リスクを適切に管理しないと企業の資金繰りが悪化し、最悪の場合、連鎖倒産のリスクも伴います。本記事では、信用リスクの定義から、リスクが企業に与える影響、さらにリスクを回避するための方法を解説していきます。
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目次
信用(与信)リスクとは?
信用(与信)リスクとは、取引相手に対して商品やサービスを提供した後、代金を回収できなくなるリスクのことを指します。企業間の取引では、先に商品やサービスを提供し、後で支払いが行われることが一般的です。そのため、取引先が倒産したり、支払い遅延を起こしたりすることで、売掛金が回収できなくなる可能性が生じるのです。
そもそも与信(信用供与)とは、取引先を信用して商品やサービスを提供する行為であり、この信用を与えること自体がリスクとなります。企業は売上を上げるために信用取引を活用することが多いですが、信用を提供する際には、常に「回収できないリスク」を伴っています。
信用(与信)リスクが発生する場面
信用(与信)リスクは、企業が取引先に対して信用取引を行う際に、取引の大小に関わらず常に発生します。特に売掛金の回収までの期間が長い場合、そのリスクはさらに大きくなります。企業はこうしたリスクを十分に理解し、適切に管理する必要があります。
具体的には、以下のような状況でリスクが表面化します。
取引先の財務状態の悪化
経営不振や市場変動、景気の低迷などにより、取引先の財務状況が悪化し、支払い能力が低下することがあります。こうした場合、取引先の支払いが遅延するか、最悪の場合、倒産に至ることがあります。
取引相手の信用低下
取引先の評判が悪化することや、過去に他の企業との取引で問題を起こしている場合も、支払いリスクが高まります。特に新規取引先の場合、十分な信用調査が行われないことが多く、リスクを見逃す可能性があります。
景気や市場の変動
外部環境の変動により、取引先の業績が悪化することがあります。景気が急激に悪化したり、取引先の業界が不安定な状態に陥ると、取引先が支払いを行えなくなるリスクが高まります。
信用(与信)リスクが企業に与える影響
信用リスク管理は、企業の健全性を維持するために不可欠です。信用リスクが顕在化すると、以下のような影響があります。
資金繰りの悪化
取引先が支払いを滞らせると、企業は売掛金を回収できず、資金繰りに問題が生じます。これは特に中小企業にとって致命的です。取引先の倒産などによって売掛金が未回収になると、他の取引先への支払いができず、資金繰りが悪化してしまいます。最悪の場合、黒字にも関わらず連鎖倒産に陥る可能性もあります。
自社の信用低下のリスク
企業が取引先からの支払いを回収できないと、自社の信用力にも影響を与える可能性があります。一度焦げ付きが発生してしまうと、与信管理をしっかりと行っていないのではないかという印象を与え、他の取引先や金融機関から信用が低下してしまうのです。
企業の信用が低下してしまうと、新規取引先の開拓が難しくなり、経営拡大が妨げられるリスクを抱えることになります。また既存の取引先からの契約条件の見直しを求められたり、融資条件が厳しくなるなどのデメリットが生じしてしまいます。
信用(与信)リスクを回避する方法
与信リスクを回避する方法として一般的なのが「与信管理」です。取引を行う前に取引先の信用を正確に評価し、その後も継続的に管理することで、与信リスクの発生を最小限に抑えることができます。
与信管理とは
与信管理とは、信用リスクを最小限に抑えるために、企業が取引先の信用状況を評価し、与信の管理を行うことです。与信管理には、取引開始前の信用調査、与信額の設定、継続的な与信チェックといった一連のステップがあります。
取引を開始するにあたっては、取引先の信用に関する情報を収集し、信用力に応じて与信限度額を設定します。しかし、前述した通り取引先の経営状況や財務状況は常に変化する可能性があります。取引開始後も、支払い遅延の有無や、業績や財務に変化を確認し、定期的に取引先の信用力を見直すことが必要です。
取引先の与信を正確に判断し、与信限度額を見直すなどの与信管理を体系的に行うことで、信用リスクを最小限に抑えることができます。
関連記事:与信管理とは?与信承認から事後管理までの具体的な方法と重要性を解説
与信管理の基本的なプロセス
与信管理は、以下のプロセスで行います。
- 取引開始前の信用調査
新規取引を行う前に、取引先の財務状況、業界での評判、支払い履歴などを徹底的に調査します。信用調査会社を利用することや、決算書の分析、公開情報をもとに評価することが有効です。これにより、取引先が支払い能力を持っているかどうかを事前に判断できます。
- 与信限度額の設定
各取引先に対して、売掛金の残高が一定の金額を超えないように与信限度額を設定します。限度額は取引先の信用力や財務状況に応じて設定し、定期的に見直すことが推奨されます。これにより、過剰な信用供与を防ぎ、リスクをコントロールすることができます。
- 継続的な与信チェック
取引開始後も、取引先の状況を定期的にモニタリングします。業績悪化や信用力低下の兆候が見られた場合は、すぐに取引条件の見直しや取引停止を検討します。前払いでの取引や手形の利用など、支払い条件を厳しくすることも選択肢です。これにより、売掛金の回収リスクを抑えることができます。また、取引先とのコミュニケーションを密にして、事前にリスクを察知することも大切です。
関連記事:与信管理の基準の設定方法~与信限度額の設定方法とポイント
業界別の与信リスクの特徴
製造業における与信リスク
製造業は、特にサプライチェーンに強く依存するため、与信リスクが他の業界と比較して特異な点を持っています。サプライヤーや協力会社の倒産によって、製造がストップしたり、部品の供給が途絶えるリスクがあります。また、原材料の仕入れを信用取引で行っている場合、売掛金の回収が遅れるとキャッシュフローが悪化し、事業継続が困難になることもあります。
さらに、製造業では契約が長期にわたることが多く、取引開始時には健全な経営をしていた企業が、契約期間中に業績を悪化させることも珍しくありません。そのため、長期間の取引におけるリスクを定期的に見直す必要があります。
卸売業における与信リスク
卸売業では、多くの取引先を抱えることが一般的であるため、売掛金の回収が滞るとすぐにキャッシュフローに悪影響を及ぼします。それぞれの取引先に対して適切な与信限度額を設定し、リスクの拡大を防ぐ必要があります。
取引先となる小売業は消費者の需要やトレンドに左右されやすく、急激な売上の減少が起こりやすい業界です。そのため、取引先の売上が減少する兆候があれば、早めに取引条件を見直し、リスクを最小限に抑えることが重要です。
IT業界における与信リスク
IT業界では、比較的新しい企業やスタートアップとの取引が多いため、信用情報の取得が難しいケースが多いです。このような場合、取引開始前に徹底した信用調査を行うか、リスクが高いと判断される取引先には前払いでの取引を求めるなどの対策が必要です。
また、長期契約が一般的なIT業界では、契約途中で取引先が業績を悪化させるリスクもあります。特に、プロジェクトが進行中の場合、取引先の倒産により契約が履行できなくなるリスクがあり、これが事業全体に大きな影響を与えることがあります。したがって、定期的に取引先の財務状況や経営状況をモニタリングし、リスクに応じて取引内容を調整することが重要です。
まとめ
この記事では、信用リスク(与信リスク)について、基本的な定義からリスクが企業に与える影響、リスクを回避する管理手法などを詳しく解説しました。信用リスクは、企業の財務健全性を直接左右する重要なリスクです。信用リスクを最小化するために、事前の信用調査と、取引開始後の継続的なモニタリングを行うことで、取引先の財務状況や経営状態を常にチェックし、リスクが高まった際には早期に対策を講じることが重要です。