売掛金の消滅時効とは?時効の成立を防ぐ方法や中断・更新措置について解説
売掛金の回収は企業にとって重要な業務であり、回収が長期化すると時効により回収不可能になるリスクが高まります。時効の成立を防ぐためには、適切な管理と早期対応が不可欠です。この記事では、売掛金の時効に関する基本的な知識から、時効を防ぐための実践的な方法、さらには回収後の影響とリスクについて詳しく解説します。企業が売掛金回収を効率的に行うために必要な対策を知り、未回収のリスクを最小限に抑えましょう。
目次
売掛金の消滅時効とは
売掛金とは、商品やサービスを提供した際に、代金を後払いで受け取る契約にもとづいて発生する未収金のことです。この売掛金には法律上、「消滅時効」という仕組みが適用されます。消滅時効とは、一定の期間が経過した後に債権(受け取る権利)が法律上無効になる制度です。
売掛金における時効が成立すると、債権者(売掛金を持つ側)は請求権を失い、回収が事実上不可能になります。そのため、時効管理は売掛金を取り扱う全ての事業者にとって非常に重要です。
売掛金の時効期間
売掛金の消滅時効期間は、法律によって定められています。2020年4月に施行された改正民法により、消滅時効の期間は統一され、以下の通り整理されました。
- 基本的な時効期間:5年
売掛金の消滅時効は、債権者が権利を行使できると知った時点から 5年 で成立します。これは、取引先とのやり取りや債務の履行が記録されている場合に適用されます。
- 最長時効期間:10年
債権者が権利を行使できることを知らなかった場合でも、契約成立から 10年 経過すると時効が成立します。
なお定期的な取引で月々の支払いや定期的な購入が契約にもと
づいて行われる場合は、それぞれの支払期日ごとに独立した時効期間が適用されます。
時効成立の条件と開始時点
売掛金の時効が成立するためには、いくつかの条件が必要です。
時効が成立する条件
- 権利行使が可能な状態であること
売掛金が発生し、債権者が取引先に代金を請求できる状況になった時点から時効がカウントされます。
- 時効期間内に特別な措置が取られていないこと
債権者が取引先に対して請求や督促を行わず、債務者が債務の存在を認める行為(支払い一部履行や書面での承認など)もない場合に限り、時効が成立します。
- 時効援用が行われること
時効が完成しても、債務者が「時効援用」という法的主張をしなければ、売掛金は引き続き請求可能です。時効援用をもって初めて、債権が消滅します。
時効期間の開始時点
時効期間は、原則として「弁済期(支払い期日)」から計算が始まります。たとえば、支払い期日が過ぎても請求を行わない場合、その期日から5年以内に回収行動を起こさないと、時効が成立してしまいます。
「弁済期」からの計算の例
- 支払い期日:2020年1月1日
- 時効期間:5年
- 時効成立時期:2025年1月1日
この場合、支払い期日から5年間、売掛金の回収を行わないと時効が成立し、その後は法的に回収できなくなります。
売掛金の時効を更新・中断する方法
時効の更新(または中断)は、消滅時効が進行する中で、一定の手続きを行うことによって、時効のカウントを一時的に停止し、再度時効期間を初めから計算し直すことができる制度です。これにより、売掛金の時効が延長されるため、回収のための時間を確保することが可能となります。代表的な中断手段を解説します。
債務者の承認を得る
「債務者の承認」とは、債務者が売掛金(未払いの代金)の存在や支払い義務を認める行為を指します。この承認があると、現在進行中の時効期間がリセットされ、再びゼロから新たな時効期間が開始します。
債務者の承認は、債務者が自ら意思を示したものである必要がありますが、その表現方法は必ずしも書面に限りません。具体的な行動や言葉も承認とみなされる場合があります。
債務の承認になる具体的なケースとしては下記が挙げられます。
- 書面による承認を行う
債務者が債務の存在を認める書面(メールや契約更新時の覚書や債務残高確認書など)に、署名または押印した場合、その行為は債務を承認したとみなされます。
- 売掛金の一部を弁済する
売掛金の一部でも支払いが行われると、債務者はその債務の存在を事実上認めたことになります。たとえば、総額100万円のうち10万円だけでも支払われれば、その行為が承認に該当します。
- 支払い意思を表示する
債務者が売掛金の支払い計画を記載した書面を作成して署名または押印するといった行為や、「支払いが遅れて申し訳ありません」「分割払いで支払いたい」などと記載した内容を債権者に送る行為も、債務の承認とされます。
裁判上の請求を行う
裁判上の請求とは、売掛金の回収を目的として、裁判所に正式な手続きを申し立てる行為です。この手続きを行うことで、進行中の消滅時効が中断し、新たに時効期間がリセットされます。手続きの種類には主に下記の2つがあります。
- 支払督促の利用
支払督促は、比較的簡易な方法で売掛金を請求できる手続きです。管轄の簡易裁判所に支払督促の申立書を提出し、受理されれば裁判所が債務者に支払督促を送付します。債務者が異議を申し立てなければ、督促が確定し、強制執行が可能になります。
支払督促を申立てた時点で時効が中断されます。ただし、支払督促が確定しない場合(異議が出された場合など)には注意が必要です。
関連記事:支払督促による消滅時効の更新とは?時効成立の条件や知っておくべきポイントについて解説
- 訴訟の提起
売掛金の回収を目的として正式に裁判を起こす方法です。訴訟を起こして確定判決による権利を得ることができると、消滅時効はリセットされ、時効期間が再スタートすることになります。
なお、確定する前に取り下げなどがあり権利が確定しなかった場合、時効は中断されませんが、手続終了時から6ヶ月間は時効が完成することを猶予されます。ただ時効の完成猶予期間中に再び時効更新の手続きを取らなかったときは、債権は消滅し、二度と請求できなくなります。
差押えや仮差押えを実施する
債務者の財産に対する差押えや仮差押えも、時効中断の効果を持ちます。これは、法的手続きにもとづいて実施されます。
売掛金の時効を完成猶予する方法
完成猶予は、消滅時効が進行している債権に対して、債務者と債権者が協議を行うことにより、時効期間の完成を延期する方法です。この猶予は、双方の合意によって成立し、債権者が一定の条件下で時効の進行を一時的に停止することが可能になります。完成猶予には、下記のような措置が必要です。
強制執行や仮差押えを行う
債権者が債務者の財産に対して強制執行や仮差押えを申し立てた場合、これらの手続きが進行中である間は時効の完成が猶予されます。
協議を行う
債権者と債務者が売掛金の支払いについて話し合いを行っている期間中は、完成猶予が適用されることがあります。たとえば、支払い条件の見直しや分割払いの提案を交渉している場合です。この協議期間が終了するまでは、時効の完成が猶予されます。ただし、交渉内容や期間を記録しておくことが重要です。
裁判外の請求を行う
裁判所を通さない形式で、債務者に対して請求を行うことも完成猶予の対象になる可能性があります。たとえば、内容証明郵便での請求書送付や、支払いの催促です。債務者が請求内容を確認し、協議に応じる姿勢を見せた場合に猶予期間が認められることがあります。
売掛金の回収をスムーズに進めるには
時効が成立すると売掛金の回収は法的に不可能になり、キャッシュフローの悪化や企業の信用低下につながります。時効を成立させないこともそうですが、売掛金を期日までにしっかりと回収しましょう。売掛金の回収には、早期にアクションを起こすことが極めて重要です。
請求書や督促状の定期的な発行
定期的に請求書や督促状を発行することで、売掛金が未回収であることを債務者に認識させます。特に、請求書は消費税や支払い期限などを明確に記載し、債務者に対して具体的なアクションを促すことが大切です。また、督促状も定期的に送付することで、支払期限を過ぎた債務者に再度の支払いを促します。
電話や訪問での定期的な連絡
直接的なコミュニケーションも効果的です。請求書の送付後、一定の期間が過ぎたら電話や訪問を行い、支払い状況を確認しましょう。特に訪問による督促は、債務者に対して強いプレッシャーを与えるため、時効の成立を防ぐうえでも有効です。
督促業務を効率化し、未回収を防ぐなら「Paid」
企業間決済代行の「Paid(ペイド)」は、督促業務を含めた請求業務をすべて代行し、万が一未回収になった場合も代金を100%保証します。Paidを利用することによって、督促の手間を解消し、また未回収の心配をする必要がなくなります。
Paidの導入により督促の手間や未回収リスクを解消できた事例を紹介します。
導入企業 | 株式会社生活の木 |
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業種 | アパレル・雑貨 |
- Paid導入前の課題
営業アシスタントが月に2回督促業務を行っていましたが、毎回督促状を出力して封入して発送してという業務に2~3日はかかっており、本来やるべきアシスタント業務に集中できないというのが課題でした。
また請求書を送って終わりにしてしまう件数も多く、そうなると未回収もその分増えてしまい、督促の件数が全く減らないという状況が続いていました。
- Paid導入後の効果
これまで督促業務のようなマイナスをゼロにする仕事に営業アシスタントの時間がとられてしまっていたのが、今はページを作ったりメルマガを作ったりという、プラスを生み出す仕事に転換できています。未回収のリスクもないため、攻めの体制につながっています。
関連記事:プラスを生み出す仕事に集中できるように!大きな限度額で売上もUP~株式会社生活の木の事例
まとめ
売掛金の回収は、企業の資金繰りに直結する重要な業務です。時効が成立する前に適切な対応を取ることが、未回収のリスクを最小限に抑えるための鍵となります。
重要なのは、売掛金の回収を後回しにせず、早期の対策を講じることです。専門家や債権回収会社のサポートを活用することで、よりスムーズで効率的な回収が可能となります。これらの対策を講じることで、企業はリスクを管理し、健全な財務運営を維持することができるでしょう。