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与信枠とは?基本的な意味と設定方法、管理のポイントを徹底解説

与信枠とは?基本的な意味と設定方法、管理のポイントを徹底解説

企業が取引を行う際には、相手の信用力を評価し、そのリスクを管理することが不可欠です。そのために用いられるのが「与信枠」です。与信枠とは、取引先に対して設定する「信用の限度額」を指し、これにより企業は取引リスクをコントロールし、健全なビジネス関係を維持することが可能になります。

本記事では、与信枠の基本的な定義から、その設定方法、算出方法、そして効果的な管理方法までを網羅的に解説します。

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与信枠とは

与信枠とは、企業が取引先や顧客に対して設定する「信用の限度額」のことです。例えば、商品を後払いで販売する場合、代金が支払わないリスクが常に付きまといます。そこで取引先の支払い能力や信用状況を評価して与信枠を設定し、その範囲内で商品やサービスの提供を行うことで、リスクを最小限に抑えることができます。

信用取引を行う際には、相手先が支払い不能に陥るリスク(貸倒れリスク)を避けることが非常に重要です。与信枠を設けることにより、企業はリスク管理を徹底し、取引の健全性を保つことができます。

与信枠という言葉は主にビジネスシーンや金融取引で使われますが、その概念は消費者金融やクレジットカード会社、商社など、さまざまな業界で応用されています。与信枠の設定は、企業が取引のリスクを管理しながら、信用力のある取引相手とのビジネスを拡大するための基本的な手法です。

与信枠と与信限度額の違い

与信枠とよく混同される言葉に「与信限度額」がありますが、これらには微妙な違いがあります。与信限度額は、与信枠の具体的な上限額を指し、その範囲内で企業は取引を行うことが許可されます。一方で、与信枠はもう少し広義な概念であり、与信限度額を含む「信用供与の枠組み全体」を指します。

例えば、ある取引先に与信限度額1000万円を設定した場合、その企業は1000万円までの取引が可能となりますが、それを超える取引は与信枠を超えたリスクがあるとみなされ、別途承認が必要となることが一般的です。このように、与信枠はリスク管理のための枠組み全体を表すのに対し、与信限度額は具体的な金額を指すための用語です。

与信枠の設定が必要とされる理由

与信枠の設定は、取引におけるリスクをコントロールするための重要な手段です。その理由を、詳しく解説していきます。

貸倒れリスクの回避

後払いで取引をする際に取引先の支払い能力が不明確な場合、与信枠を設定することで、貸倒れのリスクを最小限に抑えることができます。これにより、企業のキャッシュフローを安定させることができます。

取引の安定化

取引先ごとに与信枠を設定することで、企業はリスクの高い取引を避け、安定したビジネス関係を築くことが可能になります。与信枠を設定することで、取引が安全かつ円滑に行われるようになります。

ビジネスチャンスの拡大

与信枠を活用することで、リスクを適切に管理しながら、新しい取引先とのビジネスを拡大することができます。特に信用力の高い取引先に対しては、与信枠を柔軟に調整することで、取引額を増やすことが可能になります。

クレジットカードや金融業界での与信枠の役割

与信枠はクレジットカードや金融業界でも重要な役割を果たしています。クレジットカードの場合、利用者に対して設定されるショッピング枠やキャッシング枠が与信枠にあたります。これらの枠は、カード利用者の信用情報(収入、職業、過去の信用履歴など)をもとに決定され、その範囲内でのみカードの利用が可能となります。

このように、与信枠は消費者金融やカード会社が利用者のリスクを適切に管理しつつ、サービスを提供するための基本的な仕組みでもあります。

与信枠の設定方法とその手順

与信枠は、下記の流れで設定します。

・情報の収集と信用調査
・格付けランクを決定する
・与信枠を設定する

それぞれ詳しく解説していきます。

情報の収集と信用調査

与信枠を正しく設定するためには、取引先に関する信頼性の高い情報を収集し、それに基づいて取引先の信用を調査する必要があります。信用調査の方法は主に4つあります。

  1. 社内調査: 自社の営業担当者や他部署の社員から、取引先に関する情報を集める方法です。取引開始の経緯や過去の取引実績など、内部の視点から信頼性を評価します。
  2. 直接調査: 取引先企業に直接訪問し、経営状況や将来のビジョン、財務状況についてヒアリングを行う方法です。特に、中小企業や新規取引先に対しては直接訪問することで、よりリアルな情報を得ることができます。
  3. 外部調査: 外部の信用調査会社や商業登記簿謄本などの公的な情報を利用して、取引先の財務状況や信用度を確認する方法です。外部の視点から独立したデータを収集することで、より客観的な判断が可能になります。
  4. 依頼調査: 信用調査会社に依頼し、プロフェッショナルな分析を提供してもらう方法です。これにより、企業の財務状況、取引履歴、業界における地位など、詳細な情報を取得できます。

その他、取引先の決算書や財務諸表から、売上高、純資産、自己資本比率、負債比率などを分析したり、経営者の信用力、経営方針、業界内での評判といった定性的なテータも含め、総合的に評価することが重要です。

格付けランクを決定する

取引先の信用力に応じた与信枠を決定するにあたり、基準となるのが格付けランクです。与信調査の結果を企業内部で定められた格付け基準(社内格付け表)に当てはめ、取引先の信用力をA〜Eなどの格付けランクで評価します。

格付け表の基準には、単純に取引相手の財務状況などの定量的な情報だけでなく、企業全体のリスク管理方針や業界特性を考慮することも重要です。以下のような要素を考慮して決めるといいでしょう。

  • 取引規模と取引頻度: 大口取引や取引頻度の多い取引先には、リスク管理のために厳格な与信枠を設定する必要があります。
  • 業界特性: 業界ごとのリスクレベルや経済的安定性も考慮に入れる必要があります。例えば、景気の変動に敏感な業界と安定した需要がある業界では、与信枠の設定基準が異なるでしょう。
  • 過去の取引実績: 過去の取引で支払い遅延や問題がなかったかどうかも重要な要素です。長期的な良好な取引関係がある場合、比較的高い与信枠を設定することが可能です。

与信枠を設定する

格付けランクに応じて、各取引先に対する与信枠を設定します。例えば、Aランクの取引先には高い与信枠を設定し、Cランク以下の取引先にはより低い与信枠を設定します。そして社内の与信管理委員会や経営層の承認を得て、最終的な与信枠を決定します。これにより、全社的なリスク管理ポリシーに基づく適正な与信管理が行われます。

与信枠の算出方法

与信枠の算出では、企業の取引リスクを評価し、適切な金額を決定することが重要です。算出方法にはいくつかありますが、ここでは、以下の方法について紹介します。

  • 売掛金の回収サイトを基準にした算出方法
  • 自社の売上債権を基準にした算出方法
  • 自社の純資産を基準とした算出方法

売掛金の回収サイトを基準にした算出方法

まず、取引先との過去の取引データを基に、1取引あたりの平均取引額を計算します。これには、販売数量や単価などが含まれます。そして、回収サイト(例えば、月末締め翌月末払いなら2ヵ月)を掛け合わせ、「売掛債権の平均金額」を算出します。この金額をもとに社内格付けに照らし合わせ、与信枠を設定していきます。

一般的には、回収サイトが長いほど未回収リスクも高くなるため、与信枠を低めに設定する傾向があります。

自社の売掛債権を基準にした算出方法

売掛債権とは、売掛金や受取手形など後日代金を受け取る予定の債権です。帳簿上利益は出ていたとしても、売掛債権をしっかりと回収できないと黒字倒産にもつながってしまいます。

そこで、自社の売掛債権を基準に、売掛債権を回収できなくても耐えられる範囲内で与信枠を設定するのがこの算出方法です。以下の計算式で算出できます。

与信枠= 自社売掛債権× 一定割合× 格付けウェイト

売掛債権が一定割合を超えないようにリスクヘッジする仕組みとなっています。一定割合は10%ほどで設定されることが一般的です。

自社の純資産を基準とした算出方法

与信枠を自社の純資産に対して何%という計算で算出する方法で、社内格付けのランクが高いほどパーセンテージを高く設定します。一般的に純資産の一定割合は10%が許容範囲とされているため、例えば一番高いランクであっても10%ほどで設定するようにしましょう。

債権が回収できなかった場合でも、この割合までの影響であれば耐えられるという前提で設定するので、連鎖倒産のリスクを抑えることもできますが、純資産が増えなければ与信枠の最大額もなかなか上がらないデメリットもあります。

与信枠の再評価と調整のタイミング

与信枠の再評価と調整のタイミング与信枠は一度設定したら終わりではありません。市場環境や取引先の状況に応じて定期的に再評価し、必要に応じて調整することが求められます。

経済情勢の変化が生じたとき

経済情勢の変動は、与信枠の再評価の重要な要素です。例えば、景気後退期には、企業の信用リスクが高まるため、与信枠を見直してリスク管理を強化する必要があります。反対に、景気が上向いている場合には、より積極的な与信枠設定を検討することもできます。

取引状況や信用情報の変化が生じたとき

取引先の信用情報や取引状況の変化も、与信枠の再評価の際に考慮すべき要素です。支払いの遅延が頻発している場合や、新しい信用情報で取引先の財務状況が悪化していることが判明した場合、与信枠を引き下げる必要があります。逆に、取引先の業績が大幅に改善された場合には、与信枠を引き上げることも考慮されます。

効果的な与信管理のためのポイント

効果的な与信管理のためのポイント与信枠の運用と管理は、ビジネスのリスクを最小限に抑え、安定した取引関係を維持するための重要な要素です。以下に、効果的な与信管理のためのポイントを紹介します。

ガイドラインと社内ルールを策定する

効果的な与信管理には、事前に明確なガイドラインと社内ルールを策定することが不可欠です。これにより、すべての社員が一貫した基準で取引先の信用度を評価し、適切な与信枠を設定・管理することができます。

具体的には、取引開始前の信用調査を徹底することや、与信枠の設定基準やリスク評価の方法を明確に定めておくことなどです。定期的に与信枠を見直すタイミングもルールとして明文化しておくこともポイントです。

リスク要因が発生したら迅速に与信枠を見直す

先述した通り、与信枠の管理においては、取引のリスクを的確に評価し、リスクに応じて与信枠を見直すことも重要です。取引先の支払い遅延や信用情報の変化など、リスク要因が発生した場合は、迅速に対応する必要があります。

例えば、支払い遅延が頻発する取引先には、与信枠を見直し、より厳格な管理を行ったり、取引先の財務状況や業績が悪化している場合は、与信枠を引き下げたりといった対応が求められます。

柔軟な対応もできるようにしておく

ガイドラインやルールの策定も重要ですが、ビジネスを成長させるためにはある程度柔軟に与信枠を設定できる環境にしておくといいでしょう。これまで支払い遅延もなく、長期的な取引関係が築かれている取引先に対しては、与信枠を引き上げることでさらに取引額を拡大することができます。

一方で、新規取引先や信用情報が不十分な取引先に対しては、初期の与信枠を低めに設定し、取引実績に基づいて段階的に調整するのが一般的です。しかし特別なビジネスチャンスなどで一気に取引をスケールさせていきたい場合は、与信枠の一時的な引き上げが必要となることがあります。取引先の信用調査は徹底しつつ、経営陣がリスクをどこまで許容するかを見極めることで、リスクを適切に管理しながら取引拡大を実現することができます。

まとめ

与信枠は、企業が取引先や顧客に対して設定する「信用の限度額」を意味し、信用取引を行う上で欠かせない要素です。適切な与信枠を設定することで、企業は取引リスクを効果的に管理し、健全なビジネス関係を維持できます。本記事では、与信枠の基本的な定義から、設定方法、算出方法、そして管理のポイントについて詳しく解説しました。

与信枠の設定には、取引先の信用度や財務状況を的確に評価し、社内ルールに基づいて適切に設定・運用することが求められます。さらに、与信枠は一度設定すれば終わりではなく、経済情勢や取引先の状況に応じて定期的に見直すことが重要です。